寅年は6回目の年男。若いころは、あることから長く生きてきた私の人生は40歳くらいだろうと思っていました。随分と長く生きてきたものです。
学校に通うため広島市の伯母のお寺に下宿をしていたことがあります。ある夜、コタツにあたりながら住職であり仏教学者でもあった伯父と雑談交わしていました。伯父は突然コタツの上にある籠からミカンを2つ取り出して「このミカンを足したらいくつになる?」と問いました。「2つです」と答えると「数の概念からいうと2個。しかしこれらのミカンは全く同じではないじゃろう?」と。続けて「世の中には2つ同じミカンはないんじゃ。ということはこれらのミカンを足しても2個にはならんのー」という言葉に衝撃を受けたことが今でも忘れられません。
伯父の言葉を聞いたとき、私たちの概念的思考を超えた世界を垣間見たような気がしました。世間という部屋の天窓がパッと開き、見たこともない青空がそこには広がっていました。私にとって単なる経験ではなく不思議な感覚を覚えた体験だったといえます。
森羅万象の一つ一つには言語や数などの概念を超えたものを備えていて、私たちの思考による限定的な認識が全て否定されるような広大な世界に世間は包まれているということ。それと同時に私たちが認識する個別の物体には同じものは一つとして存在せず、一つ一つが固有のかけがえのない存在であるということ。それからの人生で私が物事を考える一つの視点となるような出来事でした。高校1年生の冬のことです。